公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第150回】祖国愛が導いた南鳥島沖での希土発見

櫻井よしこ / 2012.07.17 (火)


国基研理事長 櫻井よしこ

本州から1800キロ、わが国の最東端に位置する南鳥島の排他的経済水域(EEZ)の海底で、膨大な量のレアアース(希土)泥が見つかった。レアアースの濃度が1000ppmから1500ppmという、非常に高品質な泥で、濃度が400ppmの水準にとどまる中国のレアアースより数倍、良質であることも判明した。発見したのは東大工学部の加藤泰浩教授の研究チームだ。

加藤教授らは南鳥島の希土泥発見を発表する前に、フランス領タヒチの海底にも同様の希土泥が眠っていることを、昨年7月、英国の科学雑誌『ネイチャー・ジオサイエンス』に発表済みである。
 
尖閣事件契機に研究加速 
レアアースには16種類あり、軽希土と重希土に分類される。とりわけ重要なのが重希土で、南鳥島の希土泥はこの重希土の含有量が多いのが特徴だ。ハイブリッドカー、電子部品、光ディスク、エコロジー関連技術等も、最新軍事技術も、重希土なしには成り立たない。

現在、希土に関して国際社会は、希土全体の97%を産出する中国に依存している。中国は2010年の尖閣諸島海域での領海侵犯事件で見られたように、希土を戦略物資として利用し、時には恫喝まがいで最先端技術の中国への移転を要求する材料ともしてきた。

加藤教授らの発見は、レアアースに関する世界情勢を大きく変える力となる。世界有数の希土泥を自国海域に有する日本は、中国の傍若無人の振る舞いを抑止する力を得たのである。日本には未来産業の旗手として世界戦略を構築する力が与えられたのである。

実は、加藤教授は尖閣での事件で発奮し、希土泥の調査研究を加速させ、南鳥島の希土確認に至ったのだ。教授らの祖国日本への熱い想いが福音をもたらしたのだ。
 
政府は開発を支援せよ 
南鳥島の海は水深5600メートルだが、優れた日本の海洋技術で環境汚染を引き起こすこともなく、比較的容易に採取可能だ。試算では採掘船たった1隻で、1日1万トンの泥が採取出来る。年間300万トンとして、希土は日本の年間消費量の10%、最重要の重希土のひとつ、ディスプロジウムでは20%弱、現行価格で700億円分が採れる。

埋蔵量は、日本の使用量の200年分と報じられたが、「桁が違う」そうだ。恐らく、その100倍にも上る量、実に2万年分も眠っている可能性があるという。

このことの持つ戦略的意味は非常に大きく、政府は国を挙げて加藤教授らを支援しなければならない。だが、経済産業省には数年前から報告し、支援を求めてきたにも拘わらず、今日まで加藤教授らへの支援は皆無だという。狭量な官僚主義で日本飛躍の芽を潰すことは、断じてあってはならない。(了)

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第150回:祖国愛が導いた南鳥島沖での希土発見(櫻井よしこ)