公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第153回】反原発一辺倒の主要メディアは無責任

櫻井よしこ / 2012.08.06 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

首相官邸周辺で金曜日ごとにデモが行われ始めて5か月目、参加者は福井県・大飯原発の再稼働決定以降増え始め、一時は15万~18万人に上ったと主催者は発表、他方警視庁は1万7000人と発表した。

7月30日の朝日新聞は社説で「1960年の安保闘争から半世紀。これほどの大群衆が、政治に『ノー』を突きつけたことはなかった」、「『もの言わぬ国民』による異議申し立て」であり「直接民主主義の流れは、今後も強まるだろう」と書いた。

本土の沖縄化?
強い既視感を抱く。主催者と警視庁発表のデモ参加者数の大きな開きは、2007年9月29日、沖縄で開かれた日本軍の「集団自決命令」に関する教科書記述への抗議集会の参加者を主催者が11万人と発表、航空写真の分析から1万8000人と判明したことを連想させ、「本土の沖縄化」を予感させる。

官邸前のデモは60年代の全学連デモの失敗を繰り返さないために、特定の組織を前面に出すことや運動の先鋭化と暴力化を避け、平和とエコロジーを軸に好印象を保つ努力をしているといわれる。真の主催者が背後に隠れるこの手法では、参加人員は増えても、考え方は一致せず、デモを支える思想的基盤は漠としたものとなる。

平和、エコロジーなどのスローガンの前では、日本を支える産業基盤としてのエネルギー政策や、世界に誇る日本の原発技術を進化させ、日本の活力の源としていく考え方は存在し得ず、漠とした反体制感情が先走るのである。にも拘らず、それが大きな政治圧力となる。

60年安保と似た官邸前デモ
安保闘争を全学連主流派の幹部として闘った西部邁氏は『60年安保 センチメンタル・ジャーニー』(文藝春秋)でこう書いた。

「総じていえば、60年安保闘争は安保反対の闘争などではなかった。闘争参加者のほとんどが、指導者層の少なからぬ部分をふくめて、新条約が国際政治および国際軍事に具体的にもたらすものについて無知であり、さらには無関心ですらあった」

西部氏は「平和」というマジック・ワード、魔語によって「眼が曇らされ、世界の政治・軍事の現実を冷静に観察することができなくなった」のがあの闘争だったとも書いている。

なるほど、官邸前のデモと60年安保は、朝日新聞の指摘のように、実に相似形である。朝日新聞はこの直接民主主義の動きは今後も強まると書くが、原発反対で論陣を張る毎日新聞の7月29日の世論調査でさえ、大飯原発再稼働は必要とする意見が49%、必要ないが45%だった。国民世論は反原発、反再稼働だけではないにもかかわらず、そうした事実を伝えない主要メディアの責任こそ大きい。(了)

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第153回:反原発一辺倒の主要メディアは無責任(櫻井よしこ)