米国のシンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドの研究者アンドルー・スモール氏などは、欧州連合(EU)が3月22日の首脳会議で中国の対欧経済攻勢に対してよくまとまって対応策を打ち出したと称賛しているが、これは少数意見だろう。ネオコン系の米歴史学者ロバート・ケーガン氏は欧州の弱さと分裂を「米国からの戦略的分離」「EUのほころび」「欧州の終末」などと形容している。勢いの衰退は誰の目にも明らかになっている。
●「英国は気が狂った」
EUの執行機関である欧州委員会は、ユーロ圏の2019年の経済成長率見通しを当初の1.9%から1.3%に下方修正した。ユーロ圏の名目GDP(国内総生産)は2009年から2017年にかけてマイナス成長になったが、中国は139%、インドは96%、米国は34%それぞれ伸びている。
政治面での最大の打撃は英国のEU離脱決定だが、その英国は何をしているのか。3月29日に離脱の予定だったが、離脱案が議会で3度にわたって否決され、4月12日へ先送りされた。
米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トマス・フリードマン氏は、英国が経済的自殺をするとの決定を下しながら、自殺の方法に合意できないというのは、政治的リーダーシップの大いなる欠落だと皮肉たっぷりに書いている。近代議会制民主主義をつくり上げ、産業革命を成し遂げ、近代的な財政・金融、グローバリゼーションの概念を生み出した英国はついに「気が狂った」とフリードマン氏は極言している。
●防衛費合意に背向ける独
北米と欧州の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)で、加盟国はGDPの2%を防衛費に充当する合意がある。しかし、ドイツは、合意を守っていないとトランプ米大統領に批判されながら、2023年の防衛費を対GDP比1.25%にとどめると閣議で決めてしまった。
4月3日ワシントンで開かれたNATO創設70周年記念行事で、ペンス米副大統領からドイツの防衛負担に批判が出された。ソ連の脅威に対抗することを主要目標に創設されたNATOの存在意義が問われて当然だろう。
ドイツ、フランス、イタリア、英国などで一斉に勢力を伸ばしてきたポピュリスト政党の動向も欧州の性格を塗り替えようとしている。東欧のポーランドとハンガリーは西欧と足並みがそろわず、イタリア、スペインなど南欧はユーロ危機の影響がまだ残り、経済的に苦しい。米国、中国、ロシアに肩を並べて団結した欧州はどこに去ってしまったか。(了)