非関税障壁とは、関税以外の方法で輸入品の競争力を制限する慣行や法律上の規制・制度を指す。例えば、厳しい品質・安全基準や複雑な手続きが海外からの輸入を阻害していれば、非関税障壁とされる場合がある。トランプ米大統領によると、各国で一般的に採用されている付加価値税の一種である我が国の消費税は、貿易上、不公正であり、非関税障壁であるという。しかし、消費税がどのような理由で非関税障壁なのかは明らかでない。むしろトランプ氏は、米国の貿易赤字の多くが非関税障壁のせいであると思い込んでいる節がある。
●誤解に基づく「不公正」批判
消費税は消費される国で課税される。従って、日本から米国への輸出品には日本の消費税は課されず、米国で輸入関税と最終消費地たる州等の売上税が課される。日本の輸出企業には、日本国内の仕入れ段階で支払った消費税が還付される。この還付がトランプ政権には世界貿易機関(WTO)で禁止されている輸出補助金に見えるのかもしれない。しかし、これは流通過程で既に支払われた消費税が戻されるだけで、輸出補助金ではない。WTOも輸出品の消費税還付制度を協定違反ではないと認めている。
逆に、米国からの輸入品について、日本の輸入業者は関税と共に消費税を支払う。消費税を算定する際の課税価格には関税も含まれるので、輸入品の消費税額は同等の国産品より高くなる。従って輸入品は国産品に比べて消費税込みの販売価格が高くなる。しかし、輸入品の消費税率は国産品と同一であり、消費税そのものが非関税障壁となることはない。米国では、輸入時には関税のみ課されるので、消費税が非関税障壁に見えるのかもしれない。
●食料品の消費税をゼロに
以上のように、日本の消費税の仕組みは、一般的な付加価値税と同様、非関税障壁ではない。トランプ大統領は「相殺関税」の算定において非関税障壁も含まれるとしているが、消費税の扱いは曖昧なままである。我が国で消費税の撤廃または大幅な減税を求める人々は、トランプ氏の言葉を根拠に消費税の不当性を強調するが、妥当ではない。消費税の扱いは、あくまで国内経済の安定の観点から論じられるべきものであって、外圧を利用しようとするのは見当違いである。
私は、昨今の、食料品を中心とする長引くコストプッシュ・インフレ等に鑑み、食料品に限定して、恒久措置として消費税率をゼロにすべきだと考えている。そのために必要な財源は年間4兆円程度とされるが、5%から10%へ2段階の消費税増税による税収増のうち、財政健全化目的で国債返済に充てられてきた分を活用すべきである。(了)