公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

櫻井よしこ

【第157回】尖閣を放置する首相に政権担当資格なし

櫻井よしこ / 2012.09.10 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

野田佳彦首相は尖閣諸島を買い取っても、島を放置する方針だ。首相に出来る最大限の措置は国有化にとどまり、いま最も必要な尖閣諸島の領有を、漁民のための船だまりや通信施設の整備によって形にして示すことには手をつけない心づもりだと見て間違いない。石原慎太郎都知事が、広く国民から募った約14億円をそっくり国に渡すと言っていた考えを変えて、都の手元にとどめると発言し始めたのも、明らかに首相の意図を認識した故であろう。

必要な制海・制空権の確立
首相の異様なまでの消極的姿勢の背景には、親中勢力の抵抗がある。副総理の岡田克也氏を筆頭に、玄葉光一郎外相以下、外務省が首相に圧力をかけ続けている。ひたすら中国を怖れ、日中関係に一切の摩擦を起こさないことが達成すべき目標だと考える彼らの論に従えば、国益も、国の基盤である国土の守りさえも、二の次になる。

尖閣諸島周辺の海底資源は有望で、貴重な日本の宝だ。島周辺は豊かな漁場でもあり、高さ約360メートルに達する尖閣諸島の一番高い山にレーダーサイトを築けば、中国への監視網を相当程度広げ得る。

海洋資源に加えて、尖閣は重要な戦略拠点なのである。だからこそ、中国の領土奪取の野望が明らかないま、尖閣諸島を国有化し、矢継ぎ早にこの海の監視を充実させ、制海権と制空権確立の手を打ち続けなければならない。

国益忘れた外務省主導外交
にも拘わらず、野田政権は来年度の防衛予算を削減しつつある。中国の軍事的脅威に備えてアジア・太平洋諸国が尋常ならざる軍拡を進めるのとは対照的に、日本のみ国防予算削減の愚を犯す中で「毅然として対応する」という首相の言葉は虚ろである。

9月2日に行われた東京都の調査で、魚釣島に7ヵ所の水源があり、滝まで流れていることが国民に明らかにされた。このことは1979年の大平内閣時代の調査で確認されていたが、外務省がこうした情報全てを極秘にしたという。島に人が住むのに十分な水源があることを国民が知れば、島に近づく者が出てくるかもしれないと考えたためだと、島の所有者一族の栗原弘行氏は指摘する。

外務省主導のわが国の中国外交は徹頭徹尾、国益なき本末転倒ではないか。国益を忘れ去ったその外務省と歩みを共にする岡田、玄葉両氏らを御しきれず、国防費のさらなる削減に傾くのが野田氏であれば、尖閣はもとより、竹島、北方領土を含むおよそ全ての重要課題に氏がまともな対策を打てるはずがない。そのような首相と政党であれば、彼らが政権にとどまる意味は、もはやないのである。(了)

PDFファイルはこちらから
第157回:尖閣を放置する首相に政権担当資格なし(櫻井よしこ)