【第911回】現代戦を左右する電力と電波
東京大学教授 鈴木一人 ロシアのウクライナ侵攻は、現代戦において電力と電波の維持が極めて重要であることを明らかにした。2014年にウクライナのクリミア半島を占拠した際、ロシアが用いた手法は「ハイブリッド戦」と呼ばれるもので、電力を支配して停電を起こし、電波を支配して通信を遮断した上で、偽情報をばら撒まき、非正規軍を投入して武力による支配を可能にし、憲法上の規定のない住民投票...
【第910回】バイデン氏が増幅するインドの安保上の試練
インド政策研究センター教授 ブラーマ・チェラニー ロシアのウクライナ侵攻をめぐる西側とロシアの対立で、非西側世界の多くは独自路線を追求することを選んだ。実のところ、西側以外の主要な民主主義国は、南アフリカ共和国、ブラジルからインドネシア、インドに至るまで、中立を採用した。 バイデン米政権は、特にインドが国連のロシア非難決議に何度も棄権したことに苛いら立った。インドは世界...
【第909回】日本のAUKUS参加を模索せよ
国基研評議員 岩田清文 米国、英国、オーストラリア3カ国が昨年9月に創設した安全保障パートナーシップの枠組み「AUKUS(オーカス)」の下では現在、豪州海軍の原子力潜水艦取得計画が進行している。3カ国はこれに加えて4月5日、AUKUSの一環として極超音速兵器の開発でも協力すると発表した。AUKUS創設の背景には、中国による太平洋、南シナ海、インド洋などへの覇権拡大に対する米...
【第908回】北朝鮮の核恫喝にどう立ち向かうのか
国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力 北朝鮮が核兵器による露骨な恫喝を行った。北朝鮮が米国本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行したことに対して、韓国国防相は4月1日、「ミサイル発射の兆候が明確な場合には、(韓国は)発射地点と指揮・支援施設を正確に攻撃できる能力と態勢を備えている」と発言した。すると2日、金正恩委員長の妹で実質的な権力者の金与...
【第907回】今こそ「核共有」の議論を
前統合幕僚長 河野克俊 ウクライナ戦争は戦後世界が信じて疑わなかった安全保障の前提を大きく崩すことになった。 ●崩壊したNPT体制 第一は核管理を支えてきた核拡散防止条約(NPT)体制の実質的な崩壊である。NPTは核軍縮を目的に1968年に国連総会で採択され、1970年に発効した。米国、中国、英国、フランス、ロシアの5カ国以外の核兵器の保有を禁止する条約である。...
【第906回】国際無秩序を生んだ米国の力の低下
国基研副理事長 田久保忠衛 第2次世界大戦でチャーチル英首相の軍事首席補佐官を務め、戦後は北大西洋条約機構(NATO)初の事務総長になったヘイスティングス・イスメイ卿に、NATOの目的は「ロシアを除外し、米国を参加させ、ドイツを抑え込むことだ」との有名な言葉がある。中国の台頭など夢にも考えられない時代で、欧州に限定された勢力均衡を述べたものだが、国際政治の現実を見事なまでに...
【第905回】北の対米核攻撃能力がもたらす日本の危機
国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力 北朝鮮が3月24日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った。最高高度などから計算すると、通常軌道で発射すればワシントンやニューヨークのある米本土東海岸まで届く。日本では、落下地点が日本に近く危険だったという議論が多いが、今回の試射で一番の焦点は、北朝鮮がICBM弾頭の大気圏再突入技術を獲得したかどうかである。 ...
【第904回】原発を再稼働させれば電力危機は起きない
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、我が国は太陽光発電を中心とする再生可能エネルギー優先政策を推進してきた。しかし、太陽光や風力発電は変動電源と呼ばれ、出力低下を補うために火力発電所が需給調整をしている。これでは、二酸化炭素の排出を効果的に減らすことはできないし、需給調整がうまくいかないと大停電を引き起こしかねない。3月...
【第903回】防衛に努力しない国のために戦う国はない
国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志 主体性を持って国防力の強化を図る―。主権国であるならば当然のことを、戦後の日本は長らく怠ってきた。「自国の防衛に努力しない国のために一緒に戦う国はない」と明言したのは安倍晋三元首相である。当然の主張である。日米同盟は大事だが、それに安住すべきでない。 安倍氏は産経新聞のインタビュー(3月26日付)で、「自民党は(昨年...
【第902回】中国のウクライナ戦争仲介はあり得ない
国基研理事長 櫻井よしこ プーチン・ロシア大統領によるウクライナへの侵略戦争を止める為に、中国を仲介者に推す意見がある。しかし、絶対的専制君主となりつつある習近平中国国家主席の本質はプーチン氏とそっくりである。プーチン氏の侵略戦争を止めるのに習氏ほど不適切な仲介者はいないだろう。 中露両国は、日米欧をはじめとする西側諸国が尊重し、守ろうとする価値観の対極にある。人間の自...