【第927回】敬服すべきブレジンスキー氏の洞察力
国基研副理事長 田久保忠衛 米カーター政権の時に大統領補佐官を務めたズビグニュー・ブレジンスキー氏が、今から25年前に書いた「巨大な将棋盤」(邦訳「世界はこう動く」日本経済新聞社)と題する書物がある。月刊文芸春秋5月号にフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏がこの書を引用してウクライナ戦争の今日的意義を説いた。 特筆に値する第一は、中国がユーラシア大陸で世界的な覇権国...
【第926回】岸田政権は財務省の呪縛から完全に脱せよ
国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男 岸田文雄政権は5月末に発表した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)原案で、「基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の2025年度黒字化目標を堅持する」との記述を外した。 喫緊の課題である防衛費の倍増を考えても当然の選択だが、原案には財務省の企図が各所に散見された。例えば、全般的な財政支出抑制や消費増税による財源...
【第925回】「防衛力の5年以内強化」を予算で示せ
国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志 ロシアのウクライナ侵略を受け、ドイツが国防費の国内総生産(GDP)比2%以上への引き上げを決めたのに対し、日本政府は数値目標を掲げることに消極姿勢だった。それが5月23日の日米首脳会談で岸田文雄首相が防衛費の「相当な増額」を表明したのに続き、経済財政運営の指針「骨太の方針」でも、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明...
【第924回】クアッドとIPEFに見る新国際経済秩序の胎動
国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦 先週の日米首脳会談、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足、日米豪印(クアッド)首脳会議の開催という一連の動きは、国際経済秩序にとって大きな意義を有する。そこには変革への胎動を見いだすことができる。 ●重層的な経済安保の枠組み 第1に、国際経済秩序が掲げる旗印がこれまでの「貿易自由化」から「経済安全保障」へとシフトしつつ...
【第923回】海洋監視強化で安保協力に近づいたクアッド
国基研企画委員兼主任研究員 湯浅博 バイデン米政権の戦略目標は、21世紀が独裁国家優位の時代になるのを防ぐことにある。ロシアのウクライナ侵略戦争によって、分裂気味だった北大西洋条約機構(NATO)が強化され、インド太平洋でも対中抑止を念頭におく日米豪印の4カ国戦略対話(クアッド)が大きな一歩を踏み出した。今後、中露枢軸を封じ込めるには、クアッドと欧州、アジアの有志国との連携...
【第922回】防衛費増額は少なくともドイツ並みに
国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志 岸田文雄首相は23日のバイデン米大統領との首脳会談で、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費の「相当な増額」(substantial increase)を確保する決意を伝え、共同声明にも盛り込まれた。これまで岸田首相は防衛費について「金額、結論ありきではなく、現実的な議論の結果として必要なものを(予算に)計上する」(1月2...
【第921回】新・経済枠組みはアジアに実利があるのか
国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦 来日中のバイデン米大統領は「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の発足を発表した。昨年10月に構想を明らかにして以来、関係国と協議を重ね、ようやく「中身の議論を開始する」スタートラインに立った。しかし、果たしてうたい文句である「新たな経済圏」の構築につながるのか。 ●日本がIPEFの橋渡し役 中国の環太平洋経済連携協定(T...
【第920回】「ヒロシマ・サミット」に反対する
国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志 来年日本で開催される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の開催地について、岸田文雄首相は広島市で開催する方向で調整に入っている。ロシアがウクライナを侵略し、核の恫どう喝も行っているなかで、核なき世界と平和の重要性を訴えるためにも被爆地広島での開催がふさわしいという。だが、ロシアや中国に対抗するためにも、G7が核を含む拡...
【第919回】日本の核不安の一因はバイデン政権にある
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 ウクライナ侵略後、ロシアが核兵器使用をほのめかして威嚇する中で、我が国においても核攻撃に対する不安から、米国との核共有や日本独自の核保有を検討すべきだとの議論が高まっている。そうした不安の一因はバイデン政権の政策にある。 まずウクライナがロシアに侵略された際の対応について、本来なら曖昧にしてロシアに侵略を躊躇ちゅうちょさせるべきところ、...
【第918回】対ロ制裁にはエネルギー安保の視点が必要
国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦 先進7か国(G7)は5月8日のテレビ首脳会議でロシア産原油の原則禁輸に合意し、ロシアへの圧力を強めた。日本もG7の結束を重視せざるを得ないと判断した。経済制裁に「返り血」は付き物で、当然覚悟しなければならない。大事なことは、制裁を科す方と科される方のどちらのダメージが大きいかを冷静に見極めることだ。 ●厳しい選択だった原油禁輸...