【第811回】意外に穏やかだった習主席の演説
国基研副理事長 田久保忠衛 習近平国家主席の中国共産党創設100周年式典における演説を報道した日本のメディアは「台湾」の部分を見出しに取った。ケチをつけるわけではないが、習主席は1時間余りの演説の最後の方でごく短く台湾に触れたにすぎない。強い表現と言えば、「いかなる『台湾独立』のたくらみも断固として粉砕し、民族復興の明るい未来を共に創造しなければならない」という箇所だけだ。...
【第810回】国民の心に響かない夫婦別姓論争
日本大学教授 先崎彰容 昭和20年8月1日、日本民俗学の第一人者・柳田國男は友人から終戦が近いことを教えられた。齢70歳を超えていた柳田は決意を固める――「いよいよ働かねばならぬ世になりぬ」。こうして書き始められたのが『先祖の話』である。 柳田の関心は、戦争で亡くなった死者の霊魂の行き先と、そして多くの若者が死ぬことによって「家」を守り固める存在がいなくなることへの危機...
【第809回】日本のサイバーセキュリティ体制を憂える
国基研客員研究員・元陸上自衛隊システム防護隊長(初代) 伊東寛 6月24日の報道によれば、来年度、警察庁にサイバー攻撃に対応する「サイバー局」が誕生し、また捜査に当たる直轄のサイバー部隊も設置されるとのことである。こうして多方面にわたりサイバーセキュリティ関連の組織が充実してきたことはもちろん良いことだが、不安もある。 ●攻撃対処の仕組みに欠陥 今回、警察のサイ...
【第808回】再稼働の40年超原発は新品同然
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 運転開始から44年経つ関西電力美浜原子力発電所(福井県美浜町)3号機が10年ぶりに再稼働した。朝日新聞と東京新聞はこれを「老朽原発」と決めつけ、すぐにも事故が起きそうな印象操作をした。 しかし、2013年に改正された原子炉等規制法により、運転開始から40年を経過した原子炉は、運転期間を1回に限り最大20年延長することが認められ...
【第807回】夫婦同氏制は女性差別でない
国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦 6月23日、最高裁大法廷は、「夫婦は、結婚の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定した民法750条は憲法に違反しないと判断した。夫婦が望む場合には結婚後もそれぞれ結婚前の氏を戸籍上選べる選択的夫婦別氏制を排斥したのである。 多数意見は、平成27(2015)年12月16日の大法廷判決を踏襲し、「夫婦の氏についてどのような制...
【第806回】台山原発希ガス漏洩にみる中国の隠蔽体質
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 中国南部の広東省にある台山原子力発電所1号機から放射性物質が漏洩した。1号機は2018年に運転を開始した最新鋭の欧州加圧水型原子炉(出力165万キロワット)で、漏洩について中国当局の情報開示が遅れ、隠蔽体質を感じさせる事例となった。 ●情報開示は報道の2日後 漏洩が明るみに出たのは6月14日、原子炉を中国に輸出したフラ...
【第805回】再エネ推進に立ちはだかる鉱物資源の制約
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 国際エネルギー機関(IEA)は5月、地球温暖化対策のため再生可能エネルギーを推進する場合に、風力発電や電気自動車、蓄電池に必要な鉱物資源の量が膨大に増え、環境破壊なども問題になるとの報告書を発表した。これを基に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが同月11日付で、バイデン米大統領が数兆ドルを注ぎ込もうとしているエネルギー転換政策は...
【第804回】安保上の当然の行為は企業統治と無関係―東芝株主総会問題
国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦 東芝の株主総会の運営が公正でなかったとする外部調査報告書が公表された。東芝が経済産業省と一体となって「物言う株主」の株主提案権の行使を妨げたとし、そのために経産省が外為法の問題がないにもかかわらず、その規制をもって介入したとのストーリーに仕立て上げられている。 しかしこれを鵜呑みにした報道に惑わされず、実態を冷静に見る必要がある。...
【第803回】日本が歩むチェンバレンの道
産経新聞月刊正論発行人 有元隆志 先の通常国会で、対中人権非難決議案の採択は見送られた。与党の二階俊博自民党幹事長、山口那津男公明党代表らが中国との関係維持を最優先する立場から決議案採択に慎重だったためだ。野党も決議案に賛成はしたものの、積極的に動いていた議員は多くなかった。与野党は採択見送りの責任のなすりつけ合いをすべきでない。国会議員全員に連帯責任がある。 ●侵...
【第802回】戦時労働者問題で画期的判決
国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力 6月7日、韓国ソウル地裁が朝鮮人戦時労働者問題で正当な判決を下した。元労働者ら85人が日本企業16社を相手取り、慰謝料1億ウォン(約1000万円)ずつを求めた訴訟で、訴えを却下したのだ。 43ページにわたる判決全文を読み、裁判長を務めた金亮澔キムヤンホ部長判事のバランス感覚と愛国心に心を打たれた。 ●「最終的解決...