奈良林直の記事一覧
次亜塩素酸水めぐる拙速報道に苦言 奈良林直(東京工業大学特任教授)
新型コロナウイルスの消毒剤が逼迫している状況のなかで、経済産業省の委託を受けた製品評価技術基盤機構(NITE)は5月29日、アルコール消毒剤の代替となる複数の界面活性剤や次亜塩素酸水の試験結果を公表した。 次亜塩素酸水については、国立感染症研究所のpH5.0のサンプル液では、有効塩素濃度49ppm、噴霧後1分で99.99%の感染値減少の効果が確認されたが、北里大の検証試験では4つのサンプルで...
日本原燃の再処理工場「合格」の意義 奈良林直(東京工業大学特任教授)
原子力規制委員会は5月13日、青森県六カ所村に建設された日本原燃の再処理工場の安全審査で「審査書案」を取り纏めた。これは、2011年3月の福島第一原子力発電所の過酷事故を踏まえた厳しい新規制基準に対する追加要求も満たし、再処理施設としての事実上の安全審査の合格に相当する。今後、一般の意見公募(パブコメ)を経て、今夏中に正式合格となる見込みである。 ●原発40基分の使用済み燃料処理 再...
コロナ対策で活用広がる次亜塩素酸水 奈良林直(東京工業大学特任教授)
「今週の直言」や「ろんだん」で、次亜塩素酸水の利用を繰り返し提案しているが、国の積極的な利用がなかなか進展しない。「予防保全」の観点から感染の予防に力を入れる方が遙かに効果的であり、「事後保全」として発症した患者を医療により治療するのは大変で、医療従事者に大きな負担がかかることは明白である。医学おける予防保全は、ワクチンを開発することであるが、これには少なくとも1年以上の歳月と膨大な開発コストが...
【第673回・特別版】米空母をコロナ感染から救え
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直 米海軍の原子力空母で新型コロナウイルスの感染が相次いで確認され、これまでに「セオドア・ルーズベルト」をはじめ4隻の乗組員に感染者が出た。米空母は中国、北朝鮮、イランなどの脅威を抑止するために枢要な作戦行動を担っており、米空母のウイルス感染が拡大すると、インド太平洋地域を含む世界の安全保障に深刻な影響を与えかねない。そこで、空母で...
【第671回・特別版】川内原発の運転停止を再考せよ
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直 九州電力川内原子力発電所(鹿児島県)の1号機が3月16日に運転を停止した。航空機によるテロを想定した特定重大事故対処施設(特重施設)の完成期限が3月で切れてしまい、運転停止命令が出される前に、自主的な運転停止に追い込まれた。2号機も5月26日に停止する。 新型コロナウイルスの感染拡大で九州経済が落ち込んでいる中、原発の運転停...
新型肺炎の予防保全の重要性を訴える 奈良林直(東京工業大学特任教授)
2月17日の今週の直言「新型コロナウイルスの感染予防策を提言する」で提起した「新型コロナウイルスの感染予防策」がなかなか実行に移されていないことを残念に思う。この間にクルーズ船内での感染が広がり、さらにスポーツジムや病院での感染が広がっている。私は、原発の安全性・信頼性を高める活動を推進している日本保全学会の会長を4年間務めた「保全学」の専門家として、予防保全の重要性をあらためて説明したい。 ...
田中氏の「再反論」は反論になっていない 奈良林直(東京工業大学特任教授)
「温暖化は止まっていない」と指摘した2月6日付の「ろんだん」に対し、同10日付で筑波大学の田中博教授から「再反論」をいただいた。ところが、それは私が指摘したハイエイタス(温度上昇停滞期)以降の最近数年間の急激な温度上昇に対する反論になっていない。過去のデータに基づく解説文の域を出ておらず、それらの点を改めて指摘しておきたい。 田中氏は、一昨年、昨年の北半球の猛暑ならぬ酷暑、昨年のアマゾン、ア...
【第657回】新型コロナウイルスの感染予防策を提言する
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直 現在、世界一厳しいとされる新規制基準に合格した原子力発電所では、万が一の事故の際に放射性物質を濾こし取るフィルターベントという装置と、住民の被ばくを防ぐためフィルターで浄化した空気を送り込むエアシェルターという設備が設置されている。実質的に地元の有意な汚染は発生しないところまで安全対策が講じられた。同様に、新型コロナウイルスによ...
地球温暖化は止まっていない 奈良林直(東京工業大学特任教授)
国基研の月例研究会などでもご登壇されておられる米アラスカ大学国際北極圏研究センター初代所長の赤祖父俊一氏らが2月5日の「ろんだん」で「地球温暖化は殆ど止まっている」と書いている。赤祖父氏は2018年9月10日の今週の直言【第542回】でも同趣旨のご主張をされているが、どうも違うと感じている。一昨年、昨年の北半球の猛暑を超えた酷暑や、昨年のアマゾン、アフリカ、オーストラリアの猛暑と干ばつ、それによ...
【第652回・特別版】生活・産業基盤を脅かす司法リスク
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 山口県の住民3人が四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁は17日、住民側の請求を認め、運転を差し止める決定をした。 この結果、司法判断は約2年のうちに運転が1回、停止が2回と迷走している。安定した電力供給は市民生活や産業・経済活動の基盤であり、今やこれを司法のリス...
関電の闇を徹底解明し、信頼取り戻せ 奈良林直(東京工業大学特任教授)
関西電力の役員ら20人が福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた問題で9日、八木誠会長と岩根茂樹社長が記者会見し、それまでの強気な態度を一変させ、いずれも事態の責任を取って辞任することを明らかにした。八木会長は即日辞任し、岩根社長は、関電が設置する第三者委員会の調査報告を待って辞任するというが、あまりに対応が遅すぎる この問題では9月27日の会見で社内調査の結果が公...
【第623回・特別版】中東紛争に備え原発再稼働を急げ
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直 第620回の「今週の直言」で、日本エネルギー経済研究所参与の十市勉氏は、9月14日にサウジアラビアの石油施設が無人機(ドローン)と巡航ミサイルによる攻撃を受けたことを取り上げ、湾岸産油国を巻き込む本格的な軍事衝突が発生すれば我が国のエネルギー事情は危機を迎える、と警告されている。加えて、台風や集中豪雨による大停電が日本各地で発生...
小泉大臣はパフォーマンスより具体策を 奈良林直(東京工業大学特任教授)
東京電力福島第1原発でたまり続けるトリチウム処理水について原田義昭前環境大臣が退任直前、「思い切って(海に)放出して希釈する他に選択肢はない」と発言したことについて、後任として初入閣したばかりの小泉進次郎大臣は、発言はあくまで原田氏の個人的な見解だとし、お詫びしたいと述べた。 小泉氏は就任後直ちに福島県の内堀雅雄知事や地元漁連関係者を訪ね、「福島の皆さんの気持ちを、これ以上傷つけるようなこと...
【第621回・特別版】東電元経営者無罪判決で思うこと
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 東京電力の福島第1原発の事故をめぐり、旧経営陣3人が業務上過失致死罪で強制起訴された裁判で、東京地裁は全員に無罪の判決を言い渡した。主な争点は、巨大津波を予見できたかどうかだった。政府の専門機関による地震予測「長期評価」を受け、東電子会社が「最大15.7mの津波」が原発に襲来する可能性があるとの試算を出し、3人は社内会議でこの情報...
原子力規制委の暴走で失われた国富 奈良林直(東京工業大学特任教授)
2011年3月11日の東日本大震災の津波に伴う福島第一原子力発電所の過酷事故から8年余りが過ぎた。この間、原子力安全保安院は、民主党政権下の3大臣合意のもとで安全性総合評価(ストレステスト)を実施し、同時に水密扉や消防車、電源車の配備など厳しい安全対策を求めてきたが、6月には福井県の関西電力大飯原発3号機がやっと再稼働を果たした。 しかし、ここまで原発の再稼働が遅れているのは、菅直人政権が事...
先端技術開発巡る日本のお寒い現状 奈良林直(東京工業大学特任教授)
2015年に中国の習近平主席が「コア技術は日本に頼るな。自力更生しろ」と号令をかけ、「中国製造2025」を発布した。そして今や中国は、半導体、スーパーコンピューター、人工知能(AI)、宇宙開発、次世代通信規格(5G)、そして原子力発電の分野など、ある部分ではわが国を抜き去り、米国と熾烈な技術開発競争を繰り広げるに至っている。 日本の民主党政権下で当時の蓮舫行政刷新担当相が、スパコンの予算仕分...
ドイツの失敗に学んだ中国の原発政策 奈良林直(東京工業大学特任教授)
「中国製造2025」の方針のもとに世界最強のメイドインチャイナの製造大国実現を目指す中国の原子力政策と米国の原子力・エネルギー政策について紹介したい。 日本が再生可能エネルギーのお手本としてきたドイツの政策破綻は、2月28日の月例研究会でも紹介したが、その実態についてわが国のマスコミはほとんど報道しない。だが、同じくドイツを手本に、世界最大の太陽光発電と風力発電の国となった中国は、国内のCO...
【第568回・特別版】政府は、成長戦略の1つ、原発輸出・エネルギー政策を強靱化せよ
国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直 1月18日、日立製作所(以下、日立)の取締役会の決定を経て、日立が英国のアングルシー島で進める2基の原子力発電所新設計画を凍結する方針を公表した。総事業費約3兆円のうち、2兆円を英国が準備したが、残り9000億円の日本側出資が集まらなかったためだ。原発輸出は、第二次安倍政権の成長戦略の1つに掲げられていたが、東芝-ウエスチングハウ...
真実を伝えぬブラックアウト報道 奈良林直(東京工業大学特任教授)
北海道地震に伴う道内全域停電(ブラックアウト)について、国の認可法人である電力広域的運営推進機関(広域機関)の検証委員会が中間報告をまとめた。その内容から、9月12日付の「ろんだん」で筆者が指摘していたことが改めて明確になったと思う。 マスコミ各社は、中間報告に対する社説でも、「苫東厚真火力発電所への電源一極集中がブラックアウトの背景にある」(北海道新聞)などと北海道電力を非難する論調が目に...
全道停電は泊原発の停止も一因 奈良林直(東京工業大学特任教授)
9月6日午前3時8分、北海道南部の胆振地方を震源とする最大深度7の地震が発生し、道全域の295万戸で電力供給が止まる、いわゆるブラックアウトが起こった。 震源地に近く、道内電力の約50%を供給していた苫東厚真火力発電所(総出力165万kW)が運転停止したため、ドミノ倒しのように全道の火力発電所、水力発電所が送電系統から切り離され、本州からの海底ケーブル(北本連系線)での受電も停止した。 ...
矛盾だらけの新エネルギー基本計画 奈良林直(東京工業大学特任教授)
7月3日に第5次エネルギー基本計画が閣議決定され公表された。これは2002年6月に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、前回は2011年の福島第1原発事故を踏まえ、原発と化石資源依存度の低減、再生可能エネルギーの拡大を打ち出し、第4次エネルギー基本計画としたが、気候変動に対処するパリ協定の発効を受け、2030年および2050年を見据えた新たなエネルギー政策の方向性を示すものとして見直し、第5次...
福島第2の廃炉が意味する深刻事態 奈良林直(東京工業大学特任教授)
東京電力HDの小早川智明社長が6月14日、福島県庁で内堀雅雄知事と面会し「福島第2原発を全号機、廃炉の方向で検討に入りたい」と述べたことについて、各紙は大歓迎するような大見出しを掲げ、テレビもトップニュースで報じた。 東電が福島第2の廃炉方針を明言したのは初めてであるが、内堀知事は「県民の強い思いに応じた」と改めて賛意を表明。世耕弘成経済産業相も記者団に「経営トップの責任において地元の声や福...
「伊方」の差し止め決定は司法の暴走だ 奈良林直(北海道大学名誉教授・特任教授)
愛媛県にある伊方原発3号機の運転差し止めを、広島の住民らが求めていた仮処分の抗告審で、広島高裁が13日、広島地裁の決定を覆し、運転停止を命じる決定を下した。 これに対し、四国電力は、「主張が認められなかったことは、極めて残念であり、到底承服できるものではない」とし、1週間以内を目処に広島高裁に異議を申し立てる考えを示している。朝日新聞はじめ反原発メディアは、司法の勝利と狂喜乱舞する記事を多数...
電力自由化はさらなる大停電を生まないか 奈良林直(北海道大学特任教授)
10月12日に発生した埼玉県新座市の地中ケーブル火災は、同日午後3時30分過ぎに都内で最大37万件の大規模停電を引き起こした。午後4時25分までに停電は解消したが、都内では、交通信号の消灯による大渋滞も起こった。10月14日付の電気新聞は「国の中枢である霞ヶ関の各省庁に停電が及んだ」と報じている。 経済産業省の肝煎りで2015年4月1日に設立された発送電分離の先兵である東京電力パワーグリッド...
【第221回】高レベル廃棄物の安全な処分は可能
国基研理事・北海道大学大学院教授 奈良林直 小泉純一郎元首相が、フィンランドのオルキルオトに建設されている高レベル放射性廃棄物処分のための地下特性調査施設「オンカロ」(フィンランド語で「洞窟」の意味)をちょっと見学しただけで、「我が国は処分場の場所が決まらないから脱原発だ」と発言している。これはおかしい。 ●ガラス固化体にして地下埋設 高レベル放射性廃棄物は...
【第102回】安全対策済みの原発は運転を再開せよ
北海道大学大学院工学研究院教授 奈良林直ただし 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、1号機から4号機まで4基の原子炉の事故が同時進行するという未曾有の事態となった。地震で外部電源が喪失した後、速やかに非常用ディーゼル発電機が起動し、緊急炉心冷却系が正常に作動し、原子炉の冷却が開始された。 しかし、高さ15mもの大津波の来襲により、タービン建屋の地下1階にあった非常用ディーゼル発電機が...